ねぇメグ、あなたと友達になってから私はだいぶ変われた気がする。

あなたはいつも黒い皮のライダースを着ていて、優しく私を抱いてくれたよね。

それなのに、嗚呼、どうしてこんな風になっちゃったの?

もう一度声を聞かせて、メグ。


メグ。                       


あなたとの出会いは本当に突然でした。

しんしんと雪が降りつもる夜でした。

私は何時もの様にサックス色に囲まれた自分のお部屋に閉じこもってお洋服の整理をしていました。

私はサックス色が大好きで、洋服はフリフリのロリィタです。ロリィタとはまるでお人形やお伽噺のヒロインが着る様な

フリルやリボンが沢山付いた格好のことです。

二年前、つまり私が十四歳の頃、偶然書店でロリィタを扱っている雑誌を目にし、その表紙のモデルさんもお洋服もあまりに可愛くて、

それ以来私は親の脛を齧ってまでもロリィタなお洋服を買い集め、毎日自分のお部屋でロリィタを着ています。

その日もまた、アリスのようなサックスのワンピースに白い、ポケットはハート型のエプロンを着ていたのです。だけど突然、

携帯が振動してメィル受信音設定の椎名林檎の歌が聞こえました。

いったい誰からのメィルかしら、ほとんどならない携帯が鳴ったので私は急いでメィルを読んでみました。

するとメグ、あなたからのメィルでした。

私はふと思い出しました。こないだあまりに独りがさびしくて、メィル友募集の掲示板に書き込んだことを。

『ロリィタな十六歳の女です。引き篭もりでさびしくてたまりません。誰かメィルください。』といった文章でした。

そしてメグからのメィルの内容は

『十七歳でパンクスやっていますが周りに友達居なくてさびしいです。あたし、ロリィタも好きだし、

なんだかあなたとは上手くやっていけそうな気がする。』

私は早速お返事をしました。

『メィルありがとうございます。うれしいです。ぜひ友達になってください。』


それ以来私とメグは毎日メィルを交換するようになりました。

メグは何時もライダースを着ていて、豹柄のスカートやタータンチェックのパンツや脚と脚が布で繋がっている

ボンテージパンツを穿くと言います。

顔は見られませんがきっととても格好いいのだろうな、そう思いました。

私も自分のことを沢山お話しました。

昔いじめにあって今引き篭もりだということや、好きなロリィタ服についてなど。

メグはすぐに反応し、メィルをくれます。

どんなに沢山メィルしても話題は尽きず、私たちって似ているよね、そんな感じのことを言い合っては喜びました。

初めての、信頼できる友達でした。


私は中学二年の春からいじめに遭っていました。原因は目立たない私がViviene westwoodのお財布を持っていることを、クラスのリーダー格が見つけたからです。

目立たないくせにヴィヴィアンなんか持ってんじゃねぇよといわれ、彼女の命令で私のことをみんないじめ始めました。

ヴィヴィアンとはイギリスのブランドで、オーヴのついたお財布や御洋服が可愛くて、でも高価なものでした。私はロリィタを取り扱った雑誌でヴィヴィアンを知り、親にお財布を買ってもらいました。

毎日陰口を言われ、靴箱にはごみを入れられ、酷い時は朝、登校したら机に御花の入った花瓶を置かれていたりしました。

辛くて、十一月についに限界を超え、登校拒否しました。

中二の夏に覚えたリストカットは、学校に行ってなくても止められず、私の腕はぼろぼろに成りました。

私は一人っ子なので親はとても心配していますがなにも出来ずという感じです。

そんなこんなで私は高校受験は受けずニートでヒッキーな生活を送っています。

メグはちゃんと登校しているけど信頼できる友達など居ないといっていました。

信頼できるのはあなただけだよ、メグはそういってくれました。


ある日、電話をして話さないかと誘われました。

私は一瞬戸惑いました。なぜなら此処二年間はまともに口をきく機会が無かったからです。

でもメグの声が聞いてみたくて、いいよ、と返事をしました。

夜、電話が掛かってきて、緊張してドキドキしましたが、いざ出てみると不思議なほどすらすらと言葉が生まれてきました。

メグの声はハスキーな感じで格好良かった。私たちは同じ痛みや傷や音楽やファッションについて語り合い、約二時間御喋り致しました。その後も何度も電話で喋りました。

いつも電話の後、母親にいったい誰と喋ってるの?と聞かれます。

大切な友達とだよ。私は答えます。


母は納得がいかないような顔で私を見て、去っていきました。


メグと電話して気づいたことは、私たちは意外と近くにいるということでした。

『今度一回会わない?目を見て喋りたいな』メグはそう云い私もそうだね、会いたいねと返しました。

結局メグの家と私の家の中間地点、東京の原宿で会うことにしました。

私は髪を縦ロールにして、サックス色のワンピースにヘッドドレス、白×サックスのボーダーのソックスに白いおでこ靴で、原宿竹下通り口で待ち合わせました。

暫く待っていたら、メグがやってきました。初めて見たのに、メグだとすぐに分かりました。私からメグに声を掛け、メグもすぐに気づいてくれました。

「遅れてごめんね。何着るか迷った。」

メグはその日、ライダースの下にパンクっぽい黒いTシャツ、黒いミニスカート、鋲ベルト、白×黒のボーダーのソックスにラバーソウルといういでたちでした。

「すごく格好いい」私はメグに云います。

何ゆえか周りの人間は私たちの姿を見て驚いた顔をしていました。

「ありがとう。あなたも素敵なロリィタちゃんだね。」

原宿といえども普通な格好の人が沢山いるんだ、だから変な目で見られても構わない。そう思ってメグと買い物をしました。

メグはSEXY DINAMATE LONDONでTシャツとスカートを買いました。

そのTシャツはレアものらしく、なかなか手に入りづらいものだそうです。

次に私たちはラフォーレ原宿に行ってロリィタのお店を巡りました。

私はワンピースを一着買おうとしたら、メグがヘッドドレスを買って私にくれました。

そのあと記念にプリクラも撮りました。

メグと一緒だから何も怖くない。

私が大きな声で話すほどなぜか周囲の人間は驚き、目を逸らしました。そんなにロリィタ

が珍しいのかしら、そう軽く思っていました。

竹下通りや表参道を一回りして、電車に乗って帰りました。メグは私と反対の方面なので駅でお別れです。

「また会おうね!」メグがいいました。私は頷いて手を振りました。

何ゆえかそれがメグを見るのが最後の気がしてなりませんでした。


「ただいま」

今までずっと引き篭もっていた私が外から帰ってくると母親はものすごく心配した顔で

「お帰り」といいました。

楽しかったよ。そういうと母は引きつった笑顔を私に向けました。


次の日

朝起きたら両親が車を出し、早く着替えて車に乗るように言われました。

どこに行くのかなぁ?と軽く考えていましたが、着いたのは真っ白な建物、そこは病院でした。

どうしてでしょうか、私は総合病院の心療内科・精神科に連れて行かれました。

そういえば今日はメグからメィルが来ないな、そう思いながら待合室でぼーっとしていました。


診察の時間がやってきました。

「娘は、私たちには見えない友達が居るそうなんです。」

白衣を着た年配の医師に、母は突然涙目で言いました。何が起こっているのか、さっぱりわかりません。

「それはつまり、娘さんが空想の友達と仲良くしているということですか?」

医師が聞きました。

「そうみたいなんです。何度も誰にもつながってない電話に話しかけ、何も無いところに声を掛けていたりして。こっそり携帯電話を見たら、未送信メィルが沢山で…。」

お母さん?何を話しているの?私には空想の友達なんて居ないよ、そう思いましたが口にはしませんでした。

「たぶん、娘さんはあまりの寂しさに、自分の理想とする格好や性格をした人物を作り上げてしまったのだとおもいます。」

意味が分からず私はただいすに座っていました。

もしかして、メグのこと言ってるの?違うよね?

大人たちがもやもやと喋っている中で私は固くなり俯きました。

メグ、助けて。あなたのことじゃないよね?



何とか家にたどり着きました。私は薬を飲まされました。

ねぇメグ、どうしてあなたは今日メィルをくれないの?私のこときらいになった?

まさか、本当に、大人たちが喋っていたようなことなの?

私は急いでこないだ撮ったプリクラを見てみました。

すると何ででしょう。私はちゃんと映っているのに、あなたはどれにも映っていなかった…。

もらったヘッドドレスはあるよね?クローゼットを開けてみると、確かにそこにはありました。

しかし、何ゆえかメグが買ったレアもののTシャツとスカートもあったのです。


私は愕然としました。

メグは本当に実在しないの?私の空想だったの?

携帯電話を取り出すと、そこにはメグあての未送信メィルばかりでした。受信ボックスはほぼ空っぽ。

 うそでしょ?

メグ、また私とメィルしてよ。電話してよ。

嗚呼、メグ、メグ…メグの声が聞きたいよ。

                              エンド。