「現代の人間は感情が豊か過ぎる。」

そうして本来動物として当たり前の生殖行為すら怠り、たったひとり死んでいく人間が激増しているのだよ、

と君が云った。

「まぁ。そんな僕も感情が豊か過ぎるから、ひとりで死んでいくつもりだけどね。」

絡まったシールドの先に、君の心臓。どくんどくんと、一定のリズムで、鼓動している。


「ねぇ教えてよ。人間って、何かな。」

こんな問いかけに君は気だるそうに小型のヘッドフォンを外した。

其処から、低いリズム音。微かな声で「殺せるだけ殺しなよ」と叫ぶボーカリストの声が聞こえた。


「人間というのはだね、この地上の中で一番、意味のない生き物さ。ただ生きて酸素を

吸う。緑を奪い、自分達のエゴの為に、自分達を生んだ大地を汚す。空気を濁らせ、海を汚して

武器を作る。その武器で、殺し合いを始める。一秒毎に生まれる人間、その反面一秒毎に死んでく人間がいる。

子を産む時の母親の悲鳴以上に聞くに耐えぬ声を上げ人が死んでいく。

血に塗れ生まれてきて血に塗れて死んでいく。そうだろ。

そして、延々八十年を生き自然に絶えていく傲慢な人間は、そうやって不自然に死んでく人間の存在すら無視し

自分の幸せのためにさらに傲慢になる。

人間の物欲は果てしないからね。はは。

そして此間も話したけど、感情が豊か過ぎる故に最近の人間は子孫を残そうとすらしない奴が増えてるだろ。

動物や虫ならば、本能として交尾をし、自分が死す前に新たな命をこの地に残すということを繰り返している。

当たり前のことなんだ。人間も動物なのだからね。

人間だけが「特別」という考えは間違っている。子を残し死んでく、そんな自然なことすら出来なくなってるのは

人間の進化ではなく退化に過ぎないんだよ。

そうだね、そんなことも含めて、現代の人間の存在は前にも増して無意味になったといえるだろうね。

仕方ないんだがね、それが人間の性だ。」


君は淡々と話した。そして窓から校庭を見下ろし、手に持ってた、ヘッドフォンを頭に掛けなおした。

ポツリと、「あ、蛭、終わっちゃってる。」と、曲についてなんか云った。


僕は水槽から君を眺めて、こぽりと、息の泡をひとつ吐いた。