チカチカと携帯メィル受信のマークが点滅している。 僕は点滅から受信までの合間に誰からのメィルだか想像する。 胸がどきどきする。 すると必ず単なるメィルマガジンなのだ。 それも、登録した記憶の無い。 そんな日々がどれ程続いてるんだろう。 外で散々鳴いていた蝉は七と言う日の中で交尾を済ませ土に墜ちたのだろうか。 もう聞こえない。 家の中で、箱の中で蟋蟀の声だけ。かじられた胡瓜に乗っていた。 果たして今外はどうなっているのだろう。 僕が逃避行を始めてからつけた印は三十四本目。 小学校時代にお風呂に入らない子が居てその匂いが嫌いだった。 だから湯船には漬かっている。 毎日聴いているヘッドフォンから流れる あの人の声。声。声…… 切ない声で 死にたいとか消えたいとか泣くように叫んでいて。 また別の天空を抱くあの人。 顔は見たことがない。 だって僕はあの人の声が好きで 世界観が好きなので、 顔やその他を知りたくは無い。 パソコンで音楽の話をしている。顔も知らない、どんな人生を歩んで来たかもわからない人間達と。 僕はある女性に出会った。 "造花の百合シンドローム"という極めて変ったハンドルネーム。 僕がそこそこに好きなバンドのファンだった。 僕はあの人の唄について知ってるか、聴いたことあるか訊いてみたがそれについては何も返事が無かった。 不思議な子だった。 「自殺したことある?」 したことある訳ないだろ。 したことあったらもう此所にはいないよ。 『自殺したいの?』 僕が聞いたらまさか。という短文が帰って来た。 でももう何度も何度も自分を殺したよ。 結果生きてても死んでてもどっちでも同じ状態。 追加でそんな文が来た。 へぇ。面白いことを言う子だな。 『学生なの?』 僕はふと想い聞いてみた。 「学生やりつつ自営業」という、不思議な答えが返って来た。 彼女がオンラインするのは大体深夜だった。 不眠症なんだ。明日から大切な日なのにー。 そんなやり取りをしてから約十日。彼女はオンラインしなかった。 少し心配だったけど。 他の人達と話して暇を潰して、気にしないふりしていた。 「ただいま」 彼女がオンラインをし、僕にメッセージを送って来たのは、最後に喋ってから十二日後の事だった。 「大切な仕事が終わったから、気分がいいよ。」 仕事が忙しかったらしい。お疲れ様。僕は言う。 「有り難う。十二月十四日、楽しみにしていてね。」 そしてそんな意味のわからないメッセージを送ってきた。 『なんのこと?』 僕は聞いてみた。あなたなら分かるよ。彼女が言った。 そしてしばらく話して、彼女が久々に眠いと言うのでそこで会話をやめた。 僕はパソコンを休めあの人の音楽を聞きながら深い闇に身を委ねる。 次の日久々に嬉しいメィルが携帯に届いた。 あの人の新しいアルバムが発売すると言うメィルマガジンだった。 十二月中旬。 ああ、楽しみだ。 その後淡々と日々は続き、 不定期だけど彼女とのやり取りも続けた。 十二月に入った。 あの人のアルバムは十二月十四日に発売決定したらしい。 彼女が言っていた日付と一緒だった。 でもまさか、彼女があの人と関係或る訳ない。 一体彼女の言う日付は何なんだろう。 遂に明日、あの人のアルバムが発売される日になった。 その晩、比較的早い時間に彼女からメッセージが来た。 遂に明日だね。 沢山、色色有り難う。 お話し出来て楽しかった。 これから逝こうと想う。 わたしの人生だから、死も自由だと想う。 ありがとう。 意味が分からなかった。 なに?どういうこと?何故いきなり…そんなことを。 もっと話したい。死なないで欲しい。そう送った瞬間彼女はオフラインした。 よく分からないまま。 眠れず。 朝五時にまどろんで。 十一時に通販の会社から荷物が届いた。あの人のアルバムだった。 真っ先にプレイヤーに入れて再生を押して、慎重に歌詞カードを開いた。 取り敢えずパラパラと。何故か頭は真っ白で。 ふと、最後の曲の詩が目に止まった。 「あたしは造花の百合シンドローム いつまでも綺麗でありたい いつまでも綺麗でありたい 綺麗なまま捨てられる 造花の百合のように 綺麗なまま死んでいきたい 綺麗なまま死んでいきたい」 造花の百合シンドローム。 彼女のハンドルネームだった。 そんな、まさか。 チカチカと携帯メィル受信のマークが点滅している。 僕は点滅から受信までの合間に誰からのメィルだか想像する。 胸がどきどきする。 どきどきどきどきする。 あの人の情報のメィルマガジン。 件名『緊急ニュース』 応援して下さっている皆さんに誠に残念なニュースをお伝えしなくてはなりません。 今日早朝頃、 (あの人の名前)が遺体で発見されました。 死因はまだ分かっていませんが自殺の可能性が高いと言われて居ります。 応援して下さっている皆様には詳しい情報が分かり次第追々メィルマガジンにて連絡致します。 ……… その後のメィルの内容は頭に入らず。 頭に何もない状態であの人の唄だけが頭に響いて。 繰り返し繰り返しあの人の…彼女の唄が響いて。 ああ。 良い唄だ。 終